問わず語り
 

かえし

「秘伝のタレ」
行きつけの天麩羅屋さんがあります。
目立たない裏通りに看板もなしで、ひっそりと営んでいて、
繁盛しているとは決していえない店ですが、天麩羅だけではなく、
色々な旬の和食を格安でおいしく食べさせてくれるので、
二、三ヶ月に一度ぐらいの割で立ち寄ります。
店主で板前の「やす」ちゃんとは旧い知り合いで、気安いのです。
ある日「タレ」の話がでました。
「老舗のうなぎ屋さんなどで、よく秘伝のタレなどと云われているが、
あの「タレ」とはいったい何なんだろう?」
勿論秘伝と言うぐらいだから、それぞれ、工夫があって、曰く言い難しなのだろうが、
「やす」ちゃんがいうには、
うなぎのタレの場合「基本は【かえし】だとおもう」というのです。
「かえしって」
「かえしってのは、職業用語で。醤油と味醂と砂糖とを合わせて作ったもので
これを一般に「タレ」と呼んでいるんです」
「うなぎや焼き鳥やドンつゆや蕎麦つゆにも使われています、最近では、手羽先の唐揚げにも
使われているようです」
「製法としては、【ほんがえし】と【生がえし】があって、火を使って、味醂のアルコールを飛ばし、
醤油と砂糖(ザラメが多い)を加え、トロ火で若干煮詰めたものをほんがえし。
火を使わず、醤油と味醂と砂糖(氷砂糖、水飴の場合もある)を合わせて寝かせたのを
生がえしといっています」
醤油1 味醂1 砂糖はお好みが基本なんだそうです。
さて、秘伝なんですが、この基本になんらかをプラスアルファーすることで、
プラス秘伝になったり、マイナス秘伝になります。
あるうなぎ屋さんの場合、何十年の間、カメのタレを変えずに、
継ぎ足し、継ぎ足しでやっているそうです。
当然、焼いたうなぎをじかにタレにつけますから、浮き上がった脂や栄養素がタレに入ります。
その脂と馴染んだタレを秘伝と云っている店が多いようです。
単純に考えますと、タンパク質などは酸化しますし、腐りますから、味にはよくないと
思うのですが、理解し難いところです。
「やす」ちゃんの方式は、作り置いた「かえし」を小出しに出し、味付けした新鮮なかつをだし
と「合わせて」使うといっていました。うなぎや焼き鳥は濃い目に、ドンつゆは薄目にと使い
分けるやり方なんだそうです。
(「かえし」そのものには、一切他の物を加えない、そうすると一年でも腐らず持つんだそうです)
他にもあるんでしょうが、なかなか表にでないようです。
なんせ秘伝ですから。

 

 
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