問わず語り
 

曼珠沙華

 「ばあちゃん、なに掘ってんねや、死人花の根っこやねえか、それ」
 「そや、おめぇらぁは死人花ゆうて嫌いおるが、この花はなぁ、もうひとつ名があってのう 曼珠沙華ゆうんや、お釈迦さんいう尊いお方がなぁ、あるとき指を切ってのう、 その血が土に浸みて、その跡ににょっきりと葉もなしに生えてきたんよ、 そやから、曼珠沙華は尊いお方の血の花なんよ、仇おろそかに扱うとバチがあたるぞよ」
 「そんでも、母ちゃんが毒があるよって、さわったらあかんいうとったわ」
 「そや、毒があるんや、このまんま食うたら、えらい目にあうぞ、 わしらぁ伊賀のもんは、代々、毒抜きの仕方を伝えとるんさぁ、あいらぁ(お前たち)の おっ母には教えたるんが、子供にはめったに教えたらいかんと言うたるんや」
 「なんでや、おれにも教えたれ」
 「おう おう、教えたるとも、伊賀のもんにはみな教えたるわさ、 あいらぁも、そろそろ知っとってもええころだしのう、 後でこしらえ方を教えたるよってに、掘るのを手伝ってくれや」
 「うん てつだうわ」
 「ええ子じゃ」



  いまを盛りに咲いている彼岸花。この時期とても目立つ花です。 ヒガンバナにはリコリンという可愛い名前の有毒アルカロイドが含まれています。 特に根の部分に多く含まれていて、この毒は煮たり焼いたりしても 消えません。激しいおう吐と胃が強烈に痛みだし、頭がくらくらするそうです。 しかし、昔の人は飢饉などの緊急食として食べたといいます。 百合根のような根をくだき、臼で挽いてから水に晒します、 何度も何度も水を取り替え、晒しますと毒が抜けるといいます。 残った澱粉を天日に干して保存しておくんだそうです、 くず餅やわらび餅をつくる要領で煮ます。 「ヘソビ餅」というんだそうです。 食べ方は、黄な粉やアンではなく、味噌でたべます。 私は食べたことはありませんし、これからも多分食べません。 リコリスと呼ばれるヒガンバナ科の仲間(ナツズイセンやショウキラン等) には野生、園芸種ともみな同じ毒があるようです。

参考文献:植松 黎著「毒草を食べてみた」文藝春秋刊

 
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