問わず語り
 

商売

会社をリストラされた親しい友が突然訪ねてきた
明日朝早くに小牧の空港から韓国へ用事で行くので
泊まらせて欲しいというのだ。
韓国へは遊びではなく、商用で行くんだという
「で、いったい何の商売を始めたの?」とオレ
「ある大きなスーパー内で「ヘヤーアクセサリ」ーなんかを「ワゴン」で売るんです」
「ああ、あれね、よく見かけるよ。でもあんなんで喰っていけるんかなぁ?」
「始めて3ヶ月になりますが、まぁなんとか、勤めていた頃の収入程度は稼げるようになりました」
「ふ〜ん、なんか、それって露天商に似ているよね、場所が屋根付きってとこが違うけどふうてんの寅さんの職業にうんと近いよね」
「そうなんですよ、自分でもそう思っています」
「でも凄いや、バイタリティがあるね、感心しちゃう。身体のほうは大丈夫、しんどくない?」
「最初の1ヶ月は冗談でなく、死ぬかと思いましたよ、そのスーパーは9時から9時までの12時間営業なので、それに合わせなきゃぁいけない、アルバイトを雇えれば問題はないんだけど、なんせ、手持ちの僅かな資金を「ワゴン」の権利や仕入れに使ってしまって、すっからかんなんです。
仕方ないから一人でやったんだけど、12時間ワゴンの前で座っていて、トイレいくにも僅かなすきをついて駆け足ですませ、食べるのは買い置きしたカロリーメイトと缶ジュースだけなんです。
それも、お客さんの目を盗んでこっそり口に入れなきゃぁいけないし。1週間ガンバリましたが、さすがに、しまいには頭がくらくら、目が回ってきたので、恐くなってアルバイトを頼みました。
あとで、同業の仲間が言ってました。この商売は身体が資本だから、喰うものはちゃんと喰わなきゃつづかないよって。昔80kgあった奴が3ヶ月で60kgになっちまって、へとへとになって結局入院したんだって、あんたは痩せてるから、きっと死ぬよって言われた」
「そりゃぁそうだわなぁ、で具体的にどのぐらいの儲けなの?」
「ワゴンが1台月12万円で2台借りてるんです。商品の値段は10円から高くても1000円の売値ですけど、仕入れ値の5倍売りが大体の「めやす」で、日に5万円平均売って、やっと自分の取り分が40万ぐらいかなぁ」
「がんばってる割には大したことはないか」
「これでも好い方なんです。中・高生の女の子が対象ですから、夏休みの間は売れ行きがいいんです。
これからはもう少し売り上げは減るように思います。それで年齢層を上げるための商品を韓国へ仕入れに行くんです。いまアクセサリー関係は韓国が一番いいんですよ。値段も安いですしね」
「………………………………………」
「この商売は商品の目利きが全てです。売れそうなやつが売れなかったり、売れそうもないやつが爆発的に売れたり、そういう世界なんです。タカラ探しのような処がありますね。それが恐いし、また面白くもありますね」
「………………………………………」
「昔のかつぎやさんですよ。80kgからの荷物を韓国から担いでくるんです、宅急便に支払うお金が惜しいものですから」
「そうかぁ、がんばれよ。オレも仕事がダメになったら、弟子になるから、そのときは頼むね」

 
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